和歌ノート

八代集(古今・後撰・拾遺・後拾遺・金葉・詞花・千載・新古今)の注釈メモ

古今和歌集巻第三

夏歌 三十四首

夏歌

135

題しらず

読人しらず

我やどの池の藤なみさきにけり山郭公いつかきかなん

このうたある人のいはくかきのもとの人まろが也

  • 定家八代抄・夏歌:195
  • 藤なみ:藤波⇔波
  • 白氏文集「鳥恋残花枝」

136

うづきにさけるさくらをみてよめる

紀としさだ

哀てふことをあまたにやらじとや春にをくれてひとりさくらん

  • 定家八代抄・夏歌:197
  • あまた⇔ひとり
  • さくらん〜桜

137

よみ人しらず

さつきまつ山時鳥うちはぶきいまもなかなんこぞのふるごゑ

  • 定家八代抄・夏歌:207
  • ほととぎす:五月に鳴く

138

伊勢

五月こばなきもふりなん郭公まだしきほどの声をきかばや

  • ふり:古くなる、聞き馴れる
  • まだしき:ういういしい

139

読人しらず

さ月まつ花たち花のかをかげばむかしの人の袖のかぞする

  • 定家八代抄・夏歌:208
  • 古今選・夏 ○
  • 伊勢物語・六十段
  • 橘:常緑樹〜不変

140

いつのまにさ月きぬらん足曳の山郭公いまぞ鳴なる

  • 足曳の⇒山

141

けさきなきいまだ旅なる時鳥花たち花にやどはからなむ

  • 定家八代抄・夏歌:209
  • 旅→宿

142

をとは山をこえける時に郭公の鳴をきゝてよめる

きのとものり

音羽山けさこえくれば郭公梢はるかにいまぞなくなる

  • 古今選・夏 ○
  • 音羽山〜声〜鳴く

143

郭公のはじめてなきけるをきゝてよめる

そせい

時鳥はつ声きけばあぢきなくぬしさだまらぬ恋せらるはた

  • 白氏文集「勝地本来無定主」
  • はた:詠嘆

144

ならのいその神でらにて郭公の鳴をよめる

いその神ふるき宮この郭公こゑばかりこそ昔なりけれ

  • 古今選・夏 ○
  • いその神⇒ふる
  • ふる:古⇔布留(石上)
  • ほととぎすの声の不変性

145

題しらず

よみ人しらず

夏山になくほとゝぎす心あらば物思ふ我にこゑなきかせそ

  • な…そ:禁止
  • 李白・奔亡道中五首「誰忍子規鳥。連声向我啼」

146

郭公なく声きけば別にし故郷さへぞ恋しかりける

  • 古今選・夏
  • 荊楚歳時記「杜鵑初鳴。先聞者主別離」

147

時鳥ながなく里のあまたあれば猶うとまれぬ思ふ物から

  • 定家八代抄・夏歌:237
  • 伊勢物語・四十三段
  • うとし:疎・外

148

おもひいづるときはの山の郭公から紅のふり出てぞなく

  • 定家八代抄・夏歌:238
  • ときは:時は⇔常盤山
  • から紅⇒振る
  • 白氏文集「杜鵑啼血猿哀鳴」
  • 色彩:常緑⇔唐紅

149

こゑはして涙は見えぬ郭公わが衣でのひつをからなん

  • 定家八代抄・夏歌:239
  • 白氏文集「杜鵑声似哭」

150

足曳の山郭公おりはへて誰かまさるとねをのみぞなく

  • 定家八代抄・夏歌:221
  • 足曳の⇒山
  • おる:重ねる

151

今さらに山へかへるな郭公声のかぎりは我宿になけ

  • 今さらに:今、更に

152

みくにのまち

やよやまて山時鳥ことづてん我世中にすみわびぬとよ

  • 定家八代抄・夏歌:244
  • やよや:呼びかけの表現
  • 伝言の相手:山に住む人

153

寛平御時きさいのみやの歌合のうた

きのとものり

さみだれに物思ひをれば時鳥夜ぶかく鳴ていづち行らん

  • さみだれ:五月雨⇔乱れ

154

よやくらき道やまどへる郭公我宿をしも過がてになく

  • 留まり鳴き続けるほととぎす

155

大江千里

やどりせし花橘もかれなくになど時鳥声たえぬらん

  • 定家八代抄・夏歌:245
  • 古今選・夏
  • かれ:枯れ⇔離れ
  • 夏の景物(橘・ほととぎす)の一方が損なわれた状態

156

きのつらゆき

夏の夜のふすかとすれば郭公鳴一こゑにあくるしのゝめ

  • 定家八代抄・夏歌:236
  • 夏の夜の→明くる
  • 白氏文集「九江三月杜鵑来。一声催得一枝開」
  • しのゝめ:夜の明ける直前

157

みぶのたゞみね

くるゝかとみればあけぬる夏の夜をあかずとやなく山郭公

  • あかず:飽かず⇔明かず

158

紀秋岑

夏山に恋しき人やいりにけんこゑふりたてゝなく郭公

  • 恋しき人:ほととぎすの心

159

題しらず

読人しらず

こぞの夏鳴ふるしてし時鳥それかあらぬか声のかはらぬ

  • 定家八代抄・夏歌:210
  • 古すを飽くやうにみるべからず(平松抄)
  • それかあらぬか:是耶非耶

160

ほとゝぎすのなくをきゝてよめる

つらゆき

五月雨の空もとゞろに時鳥なにをうしとかよたゞ鳴らん

  • 空もとゞろに→ほととぎすの声、雨の音

161

さぶらひにてをのこどものさけたうべけるに、めして郭公まつ歌よめとありければよめる

みつね

郭公こゑもきこえず山びこはほかに鳴ねをこたへやはせぬ

  • やは:反語的願望

162

山に時鳥のなきけるをきゝてよめる

つらゆき

時鳥人まつ山になくなれば我うちつけに恋まさりけり

  • まつ:待つ⇔松
  • うちうけに:唐突に

163

はやくすみける所にて郭公のなきけるをきゝてよめる

たゞみね

むかしべや今も恋しき時鳥故郷にしも鳴てきつらん

  • 定家八代抄・夏歌:212
  • 古今選・夏
  • しも:強意の表現

164

郭公のなきけるをきゝてよめる

みつね

時鳥われとはなしにうの花のうき世中になき渡るらん

  • うの花のうき:卯〜憂
  • なき:鳴き⇔泣き
  • ほととぎす:冥途鳥、無常鳥

165

はちすのつゆをみてよめる

僧正遍昭

はちすばのにごりにしまぬ心もてなにかは露を玉とあざむく

  • 定家八代抄・夏歌:250
  • 古今選・夏
  • 法華経・従地涌出品「不染世間法。如蓮華在水」
  • 白氏文集「荷露雖団豈是珠」

166

月のおもしろかりける夜あかつきがたによめる

ふかやぶ

夏のよはまだ宵ながらあけぬるを雲のいづこに月やどるらん

  • 定家八代抄・夏歌:252
  • 古今選・夏 ○
  • あかつき:十分明けぬ暗いころ
  • 夏の短い夜⇔月の存在感

167

となりよりとこ夏の花をこひにをこせたりければ、おしみてこのうたをよみてつかはしける

みつね

ちりをだにすへじとぞ思さきしきよりいもとわがぬるとこ夏の花

  • 古今選・夏 ○
  • 常夏の花:なでしこの花
  • とこ:常⇔床

168

みな月のつごもりの日よめる

夏と秋とゆきかふ空のかよひぢはかたへすゞしき風や吹らん

  • 定家八代抄・夏歌:263
  • 古今選・夏 ○
  • 宋孝武帝・初秋「夏尽炎気微。火息涼風生」
  • 夏の相と秋の相の境界