和歌ノート

八代集(古今・後撰・拾遺・後拾遺・金葉・詞花・千載・新古今)の注釈メモ

古今和歌集巻第四

秋歌上 八十首

秋歌上

169

秋立日よめる

藤原敏行朝臣

秋きぬとめにはさやかに見えねども風のをとにぞおどろかれぬる

  • 定家八代抄・秋歌上:264
  • 古今選・秋 ○
  • 礼記・月令「孟秋之月…涼風至」
  • 白氏文集「今朝何事殊驚愕。応是傷心第一秋」
  • 風の音:季節の相を表す秩序変数

170

秋立日、うへのをのこどもかものかはらにかはせうえうしけるともにまかりてよめる

つらゆき

かは風のすゞしくもあるかうちよする浪とゝもにや秋は立らん

  • 定家八代抄・秋歌上:265
  • 古今選・秋
  • 立らん:波が立つ⇔秋が立つ
  • 秋の伝播:風→波

171

題しらず

読人しらず

わがせこが衣のすそを吹返しうらめづらしき秋の初風

  • 定家八代抄・秋歌上:266
  • 古今選・秋 ○
  • うら:衣の裏⇔心裏

172

昨日こそさなへとりしかいつのまにいなばそよぎて秋風のふく

  • 定家八代抄・秋歌上:267
  • 古今選・秋
  • 因果の逆転

173

秋風の吹にし日より久方のあまのかはらにたゝぬ日はなし

  • 定家八代抄・秋歌上:291
  • 久方の⇒天
  • 万葉集「秋風の吹きにし日より天の川瀬に出で立ちて待つと告げこそ」

174

久かたのあまのかはらのわたし守君わたりなばかぢかくしてよ

  • 定家八代抄・秋歌上:292
  • 君:彦星
  • 万葉集「わが隠せる梶棹なくて渡り守舟貸さめやもしましはあり待て」

175

天川もみぢをはしにわたせばやたなばたつめの秋をしもまつ

  • 定家八代抄・秋歌上:293
  • 古今選・秋
  • たなばたつめ:棚機つ女、織女星

176

恋々てあふよはこよひ天川霧たち渡りあけずもあらなん

  • 霧:秋の景物

177

寛平御時なぬかのよ、うへにさぶらふをのこども歌たてまつれとおほせられける時、人にかはりてよめる

とものり

天川あさせしら浪たどりつゝわたりはてねばあけぞしにける

  • しら浪:知らなみ⇔白波

178

おなじ御時きさいの宮の歌合のうた

藤原おきかぜ

契りけん心ぞつらき七夕の年に一たび逢はあふかは

  • 一夜の飽かぬ悲しみより、契りけん心ぞつらきと言ふなり(両度聞書)

179

なぬかの日の夜よめる

凡河内みつね

年毎に逢とはすれど七夕のぬるよのかずぞすくなかりける

  • 古今選・秋 ○
  • ただ、思ひいれてうち嘆きたる心なり(両度聞書)

180

七夕にかしつるいとのうちはへて年のをながくこひやわたらん

  • 定家八代抄・秋歌上:294
  • かしつる:手向ける、供える
  • うちはへて:糸〜年の緒⇒ながく

181

題しらず

そせい

こよひこん人にはあはじ七夕の久しき程にまちもこそすれ

  • 待つ:七夕〜作者

182

なぬかのよのあかつきによめる

源むねゆきの朝臣

今はとてわかるゝ時は天川わたらぬさきに袖ぞひちぬる

  • ひつ:天の川を渡って濡れる〜涙で濡れる

183

やうかのひよめる

みぶのたゞみね

けふよりはいまこん年の昨日をぞいつしかとのみ待わたるべき

  • 七夕の後朝
  • 円環的な時間:周期的境界条件

184

題しらず

よみびとしらず

このまよりもりくる月の影みれば心づくしの秋はきにけり

  • 定家八代抄・秋歌上:303
  • 古今選・秋 ○
  • 白氏文集「去歳此悲秋。今秋復来此」

185

大かたの秋くるからに我身こそ悲しき物と思ひしりぬれ

  • 大かたの:世間一般の
  • 白氏文集「燕子楼中霜月夜。秋来只為一人長」

186

わがためにくる秋にしもあらなくに虫のねきけばまづぞかなしき

  • しも:強意の表現

187

物ごとに秋ぞかなしきもみぢつゝうつろひ行を限と思へば

  • もみづ:紅葉する
  • 嵯峨天皇・賦秋可哀「秋可哀兮。衰草木揺落」

188

ひとりぬるとこは草葉にあらねども秋くるよひは露けかりけり

  • 定家八代抄・秋歌上:272
  • 草葉〜露
  • 露けかる:涙に濡れる

189

これさだのみこの家の歌合のうた

いつはとは時はわかねど秋のよぞ物思ふことの限成けり

  • 定家八代抄・秋歌下:397
  • 白氏文集「大抵四時心忽苦。就中腸断是秋天」

190

かんなりのつぼに人々あつまりて、秋の夜おしむうたよみけるついでによめる

みつね

かくばかりおしと思ふよをいたづらにねてあかすらん人さへぞうき

  • 万葉集「ある人のあな心無しと思ふらむ秋の長夜を寝覚め伏すのみ」

191

題しらず

読人しらず

白雲にはねうちかはしとぶ雁のかずさへみゆる秋の夜の月

  • 定家八代抄・秋歌上:321
  • 古今選・秋 ○
  • 秋の月の明るさ

192

さよなかと夜はふけぬらし雁がねのきこゆる空に月わたるみゆ

  • わたる:西の方に行く

193

これさだのみこの家の歌合によめる

大江千里

月みればちゞに物こそ悲しけれ我身ひとつの秋にはあらねど

  • 定家八代抄・秋歌上:306
  • 古今選・秋 ○
  • ちゞ⇔ひとつ
  • 月を見る作者⇔万民を照らす月

194

たゞみね

久かたの月のかつらも秋は猶もみぢすればやてりまさるらん

  • 定家八代抄・秋歌上:307
  • 古今選・秋 ○
  • 久かたの⇒月
  • 万葉集「もみちする時になるらし月人のかつらの枝の色付く見れば」

195

月をよめる

在原元方

秋のよの月の光しあかければくらぶの山もこえぬべら也

  • くらぶの山:くらぶ山⇔暗
  • 月如昼と言へるやうなる夜のさまなるべし(十口抄)

196

人のもとにまかれりける夜、きり〴〵すのなきけるをきゝてよめる

藤原たゞふさ

蛬いたくななきそ秋の夜のながき思ひは我ぞまされる

  • 蛬(きりぎりす):コオロギの古名
  • 秋の夜長⇔長き思い

197

是貞のみこの家の歌合のうた

としゆきの朝臣

秋のよのあくるもしらずなく虫はわがごと物や悲しかるらん

  • 作者の心〜虫の心

198

題しらず

よみびとしらず

秋はぎも色づきぬれば蛬わがねぬごとやよるはかなしき

  • 萩の色付き→秋の愁い

199

秋のよは露こそことにさむからし草むらごとに虫のわぶれば

  • 虫のわぶる:もの哀れに鳴く
  • 文選・雑詩二首「漫漫秋夜長…白露霑我裳…草虫鳴何悲」

200

きみ忍ぶ草にやつるゝ故郷はまつ虫のねぞかなしかりける

  • 定家八代抄・秋歌上:352
  • 忍ぶ:君偲ぶ⇔忍ぶ草
  • やつるゝ:衰えた作者⇔荒れた故郷
  • まつ:待つ⇔松虫

201

秋のゝに道もまどひぬ松虫のこゑするかたにやどやからまし

  • 定家八代抄・秋歌上:348
  • 松:待つ⇔松虫

202

あきのゝに人まつ虫のこゑすなりわれかとゆきていざとぶらはん

  • こゑすなり:音声からの推定

203

もみぢばの散てつもれる我宿にたれを松虫こゝらなくらむ

  • こゝら:数量の多いさま

204

ひぐらしの鳴つるなへに日はくれぬと思ふは山のかげにぞ有ける

  • 定家八代抄・秋歌上:353
  • ひぐらし:蜩⇔日暮らし
  • なへに:時間的連続

205

日ぐらしのなく山里の夕暮は風よりほかにとふ人もなし

  • 定家八代抄・秋歌上:354
  • 古今選・秋
  • 文選・贈白馬王彪「秋風発微涼。寒蟬鳴我側」

206

はつかりをよめる

在原元方

待人にあらぬ物からはつ鴈のけさなくこゑのめづらしき哉

  • 物から:逆説の表現
  • 万葉集「長月のその初雁の使にも思ふ心は聞えこぬかも」

207

是貞のみこの家の歌合のうた

とものり

秋風に初鴈がねぞきこゆなるたが玉章をかけてきつらん

  • 定家八代抄・秋歌下:367
  • 古今選・秋
  • 初雁がね:初雁の鳴く声(歌語)
  • 玉章:書信

208

題しらず

よみ人しらず

わが門にいなおほせどりの鳴なへにけさ吹風にかりはきにけり

  • 定家八代抄・秋歌下:368
  • いなおほせどり:稲負鳥

209

いとはやもなきぬるかりか白露の色どる木々も紅葉あへなくに

  • 定家八代抄・秋歌下:369
  • いとはやも:いとは最なり。はやもとははやくなり(顕注)
  • 白露が草木を染める

210

春霞かすみていにしかりがねは今ぞ鳴なる秋露の上に

  • 定家八代抄・秋歌下:370
  • 白氏文集「背春有去雁」
  • 春霞⇔秋露

211

夜をさむみ衣かり金なくなへに萩の下葉もうつろひにけり

この歌はある人のいはくかきのもとの人まろが也と

  • 定家八代抄・秋歌下:371
  • 古今選・秋 ○
  • かりがね:借りかね⇔雁がね
  • 万葉集「天雲に雁ぞ鳴くなるたかまとの萩の下葉はもみちあへむかも」

212

寛平御時きさいの宮の歌合のうた

藤原菅根朝臣

秋風にこゑをほにあげてくる船はあまのとわたる鴈にぞ有ける

  • ほ:秀⇔帆
  • 白氏文集「秋雁櫓声来」

213

かりのなきけるをきゝてよめる

みつね

うきことを思ひつらねて鴈がねの鳴こそわたれ秋のよな〳〵

  • 雁の心

214

是貞のみこの家のうたあはせのうた

たゞみね

山里は秋こそことにわびしけれしかのなくねにめをさましつゝ

  • 一事をささず、取りあつめ心ぼそきさまなり(両度聞書)

215

読人しらず

おく山に紅葉ふみ分鳴鹿のこゑきく時ぞ秋はかなしき

  • 定家八代抄・秋歌下:422
  • 古今選・秋
  • 紅葉ふみ分:鹿の動作、作者の動作

216

題しらず

秋はぎにうらびれをれば足曳の山したとよみ鹿のなくらん

  • 定家八代抄・秋歌下:423
  • 秋はぎ:鹿の妻
  • 足曳の⇒山

217

秋萩をしがらみふせてなく鹿のめには見えずてをとのさやけさ

  • 見えない姿⇔澄み切った声

218

これさだのみこの家の歌合によめる

藤原としゆきの朝臣

秋萩の花さきにけり高砂のおのへの鹿はいまや鳴らん

  • 定家八代抄・秋歌下:424
  • 古今選・秋
  • 萩:鹿鳴草
  • 高砂〜鹿

219

むかしあひしりて侍ける人の、秋の野にてあひて物がたりしけるつゐでによめる

みつね

秋はぎのふるえにさける花みればもとの心はわすれざりけり

  • 古今選・秋
  • 古枝⇔旧知の人

220

題しらず

よみ人しらず

あき萩の下葉色づく今よりやひとりある人のいねがてにする

  • 定家八代抄・秋歌上:323
  • いねがてに:寝入り難い
  • 秋の悲しみ〜孤独

221

鳴わたる鴈の涙やおちつらん物思ふやどの萩の上の露

  • 定家八代抄・秋歌上:324
  • 古今選・雑 ○
  • 雁の涙〜萩の上の露

222

萩の露玉にぬかんととればけぬよしみむ人は枝ながらみよ

ある人のいはくこの歌はならのみかどの御うた也と

  • 定家八代抄・秋歌上:325
  • 玉にぬかん:玉飾りにするために糸を通す
  • 露〜玉
  • よし:他人の動作の許容、譲歩の仮定の表現

223

おりてみばおちぞしぬべき秋萩の枝もたわゝにをける白露

  • 定家八代抄・秋歌上:326
  • たわゝ:たわみしなう

224

萩が花ちるらんをのゝ露じもにぬれてをゆかんさよはふくとも

  • 定家八代抄・秋歌上:327
  • 古今選・雑 ○
  • 万葉集「露霜に衣手ぬれて今だにも妹がりゆかな夜はふけぬとも」

225

是貞のみこの家の歌合によめる

文屋あさやす

秋の野にをく白露は玉なれやつらぬきかくるくものいとすぢ

  • 蜘蛛の巣の白露⇔玉の緒

226

題しらず

僧正遍昭

なにめでゝおれるばかりぞ女郎花われおちにきと人にかたるな

  • 女郎花〜女
  • おつ:女色戒を破る

227

僧正遍昭がもとにならへまかりける時に、おとこ山にてをみなへしをみてよめる

ふるのいまみち

女郎花うしと見つゝぞゆきすぐるおとこ山にしたてりと思へば

  • おとこ山〜男

228

是貞のみこの家の歌合のうた

としゆきの朝臣

秋のゝにやどりはすべし女郎花なをむつまじみたびならなくに

  • をみなへしを愛する心なり(十口抄)

229

題しらず

をのゝよし木

女郎花おほかる野辺にやどりせばあやなくあだの名をやたちなん

  • 古今選・秋 ○
  • 色好むゆへと人の思はんとなり(教端抄)

230

朱雀院のをみなへしあはせによみてたてまつりける

左のおほいまうちぎみ

女郎花秋のゝ風にうちなびき心ひとつをたれによすらん

  • 古今選・秋 ○
  • 朱雀院女郎花合:昌泰元年・秋
  • 野風:草木を枯らせる冷たい風

231

藤原定方朝臣

秋ならであふことかたき女郎花あまのかはらにおひぬ物ゆへ

  • 定家八代抄・秋歌上:337
  • 年に一度の秋→七夕
  • 物ゆへ:逆接

232

つらゆき

たが秋にあらぬ物ゆへ女郎花なぞ色に出てまだきうつろふ

  • 定家八代抄・秋歌上:338
  • 秋⇔飽き〜移ろふ
  • いち早く色移ろう女郎花

233

みつね

妻こふる鹿ぞ鳴なるをみなへしをのがすむのゝ花としらずや

  • 古今選・秋
  • 鹿の妻:萩→女郎花

234

をみなへし吹過てくる秋風はめにはみえねどかこそしるけれ

  • 女郎花〜女
  • 香りを運ぶ秋風

235

たゞみね

人のみることやくるしき女郎花秋霧にのみ立かくるらん

  • 女の、もの恥ぢしてたち隠れなどするさまにいひなせり(教端抄)

236

ひとりのみながむるよりはをみなへしわがすむやどにうへてみましを

  • 女郎花を女性に見立てる

237

物へまかりけるに人の家に女郎花うへたりけるをみてよめる

兼覧王

女郎花うしろめたくもみゆるかなあれたる宿にひとりたてれば

  • ひとりたてれば:庭に孤独に立つ女郎花〜独り住む女

238

寛平御時蔵人所のをのこどもさがのに花見んとてまかりたりける時、かへるとてみな歌よみけるついでによめる

平さだふん

花にあかでなにかへるらん女郎花おほかるのべにねなましものを

  • 古今選・秋
  • 女郎花〜飽かで〜寝なまし

239

これさだのみこの家の歌合によめる

としゆきの朝臣

なに人かきてぬぎかへしふぢばかまくる秋ごとにのべをにほはす

  • 藤袴の香り⇔袴の移り香

240

ふぢばかまをよみて人につかはしける

つらゆき

やどりせし人の形見か藤ばかま忘られがたきかにゝほひつゝ

  • 定家八代抄・秋歌上:340
  • 古今選・秋
  • 女性の視点

241

そせい

ぬししらぬかこそにほへれ秋のゝにたがぬぎかけし藤ばかまぞも

  • 定家八代抄・秋歌上:341
  • 古今選・秋
  • 枯れ行く秋の野→藤袴の香り

242

題しらず

平貞文

今よりはうへてだに見じ花薄ほにいづる秋はわびしかりけり

  • 花薄⇒ほにいづる
  • ほ:穂⇔秀

243

寛平御時きさいの宮の歌合のうた

ありはらのむねやな

秋のゝの草のたもとか花すゝきほにいでゝまねく袖とみゆらん

  • 定家八代抄・秋歌上:345
  • たもと:袖
  • 下句は上を訓釈したるなり(十口抄)

244

素性法師

われのみや哀と思はん蛬なくゆふかげのやまとなでしこ

  • 定家八代抄・秋歌上:363
  • 蛬:コオロギ
  • ゆふかげ:夕方の光

245

題しらず

よみ人しらず

みどりなるひとつ草とぞ春は見し秋は色々の花にぞ有ける

  • 定家八代抄・秋歌上:364
  • みどり⇔色々
  • 草⇔花
  • 春⇔秋

246

もゝ草の花のひもとく秋のゝに思ひたはれん人なとがめそ

  • ひもとく:花が開く⇔衣の紐を解く⇒たはれ
  • 花の姿、花の衣とも、人に寄せてよむ(顕注)

247

月草に衣はすらんあさ露にぬれての後はうつろひぬとも

  • 定家八代抄・秋歌上:365
  • 古今選・秋
  • 月草:染料に使う→変色しやすい→心変わりの比喩
  • うつろひ:色あせる⇔心変わりする

248

仁和のみかどみこにおはしましける時、ふるのたき御覧ぜんとておはしましける道に遍昭がはゝの家にやどりたまへりける時に、庭を秋のゝにつくりておほん物がたりのついでによみてたてまつりける

僧正遍昭

里はあれて人はふりにしやどなれや庭も籬もあきののらなる

  • 定家八代抄・秋歌上:366
  • 古今選・秋 ○
  • 人は古りにし:遍昭の母
  • 秋の野:もの寂しいさま