和歌ノート

八代集(古今・後撰・拾遺・後拾遺・金葉・詞花・千載・新古今)の注釈メモ

古今和歌集巻第六

冬歌 二十九首

冬歌

314

題しらず

よみ人しらず

龍田川錦をりかく神無月しぐれの雨をたてぬきにして

  • 定家八代抄・冬歌:478
  • 時雨→紅葉:錦の縦糸と横糸

315

冬の歌とてよめる

源宗于

山里は冬ぞさびしさまさりける人めも草もかれぬと思へば

  • 定家八代抄・冬歌:508
  • 古今選・冬 ○
  • かれぬと:離る⇔枯る
  • 失われてゆく温度→緩やかな死

316

題しらず

よみ人しらず

おほ空の月の光しきよければ影みし水ぞ先こほりける

  • 定家八代抄・冬歌:544
  • きよければ:冷たくさえわたる

317

夕されば衣手さむしみよしのゝ吉のゝ山にみ雪ふるらし

  • 定家八代抄・冬歌:550
  • 万葉集「夕されば衣手寒し高松の山の木ごとに雪ぞ降りたる」
  • 吉野:雪の名所

318

今よりはつぎてふらなん我宿のすゝきをしなみふれる白雪

  • 定家八代抄・冬歌:553
  • をしなみ:押し伏せる

319

ふる雪はかつぞけぬらし足曳の山の瀧つせをとまさる也

  • 足曳の⇒山
  • 瀧つ(たぎつ):激しく滝のように流れる

320

この川にもみぢばながるおく山の雪げの水ぞいまゝさるらし

  • 雪げ:雪どけ
  • 冬浅きころの雪は、やがて消ゆるなり(十口抄)

321

古郷は吉のゝ山しちかければひとひもみ雪ふらぬ日はなし

  • 定家八代抄・冬歌:551
  • 吉野離宮ありしよりのち、如此よむなり(顕注)

322

わが宿は雪ふりしきて道もなしふみ分てとふ人しなければ

  • 定家八代抄・冬歌:552
  • ふりしき:降り敷き

323

冬のうたとてよめる

紀貫之

雪ふれば冬ごもりせる草も木も春にしられぬ花ぞ咲ける

  • 定家八代抄・冬歌:554
  • 雪〜花

324

志賀の山ごえにてよめる

紀あきみね

白雪の所もわかずふりしけばいはほにもさく花とこそみれ

  • ところもわかず:場所を区別しないで

325

ならの京にまかれりける時にやどれりける所にてよめる

坂上これのり

みよしのゝ山の白雪つもるらし故郷さむくなりまさるなり

  • 定家八代抄・冬歌:555
  • 古今選・冬 ○
  • 深雪の所なれば、思ひやりてかく言ふなり(教端抄)

326

寛平御時きさいの宮の歌合のうた

ふぢはらのおきかぜ

浦ちかくふりくる雪は白浪の末の松山こすかとぞみる

  • 雪〜白浪

327

壬生忠岑

みよしのゝ山の白雪ふみ分ていりにし人のをとづれもせぬ

  • 古今選・冬
  • をとづれ:音信

328

白雪の降てつもれる山里はすむ人さへや思ひきゆらん

  • 思ひきゆらん:火〜消ゆ→雪

329

雪のふるを見てよめる

凡河内みつね

雪降て人もかよはぬ道なれや跡はかもなく思ひきゆらん

  • 跡:足跡
  • はか:目安

330

ゆきのふりけるをよみける

きよはらのふかやぶ

冬ながら空より花のちりくるは雲のあなたは春にや有らん

  • 定家八代抄・冬歌:557
  • 雪を雪とも言はで、空より花の散りくるといへり(栄雅抄)
  • 季節の相の空間的境界

331

ゆきの木にふりかゝれりけるをよめる

つらゆき

冬ごもり思かけぬをこのまより花とみるまで雪ぞ降ける

  • 花とみるまで:花と見立てることができるほど

332

やまとのくにゝまかれりける時に、ゆきのふりけるをみてよめる

坂上これのり

朝ぼらけ有明の月と見るまでに吉野の里にふれる白雪

  • 定家八代抄・冬歌:558
  • 朝ぼらけ:あけぼの、あかつき
  • 何遜・詠雪「凝階夜似月」

333

題しらず

読人しらず

けぬがうへに又もふりしけ春霞たちなばみ雪まれにこそみめ

  • 定家八代抄・冬歌:559
  • いく重もまづ積れ、春久しく雪を賞せんとなり(延五記)

334

梅の花それともみえず久かたのあまぎる雪のなべてふれゝば

この歌はある人のいはくかきのもとの人丸が歌也

  • 定家八代抄・春歌上:43
  • 古今選・冬 ○
  • あまぎる:空いっぱいに霧が立ちこめるような
  • なべて:一面に
  • 簡文帝「雪裏覓梅花」
  • 雪も梅もいづれとなく面白きをそれとも見えずと言へり(両度聞書)

335

梅の花に雪のふれるをよめる

小野たかむらの朝臣

花の色は雪にまじりてみえずともかをだに匂へ人の知べく

  • 雪に紛れる梅

336

雪のうちの梅の花をよめる

きのつらゆき

梅のかのふりをける雪にまがひせばたれかこと〴〵分ておらまし

  • こと〴〵:別々に
  • 色の不在→香りの価値の再発見

337

雪のふりけるを見てよめる

紀とものり

  • 定家八代抄・冬歌:560

雪ふれば木ごとに花ぞ咲にけるいづれを梅と分ておらまし

  • 古今選・冬 ○
  • 白梅、色をまがへたりといふ心なり(延五記)
  • 視覚的特徴の喪失

338

物へまかりける人をまちてしはすのつごもりによめる

みつね

わがまたぬ年はきぬれど冬草のかれにし人はをとづれもせず

  • 年:新年
  • かれにし:枯れ⇔離れ

339

としのはてによめる

在原もとかた

あら玉の年のおはりになるごとに雪もわがみもふりまさりつゝ

  • 古今選・冬 ○
  • あら玉の⇒年
  • ふりまさり:降り⇔古り
  • 歳暮の雪にわが身を観ず(教端抄)

340

寛平御時きさいの宮の歌合のうた

よみ人しらず

雪降て年のくれぬる時にこそつゐにもみぢぬ松も見えけれ

  • 定家八代抄・冬歌:570
  • 白氏文集「歳暮満山雪。松色鬱青蒼」
  • 松の不変性

341

としのはてによめる

はるみちのつらき

昨日といひけふとくらしてあすか川ながれてはやき月日成けり

  • 定家八代抄・冬歌:572
  • 古今選・冬 ○
  • あすか川:明日⇔飛鳥川
  • 流れてはやき:川の流れ⇔月日の流れ
  • 白氏文集「不覚流年過」

342

歌たてまつれとおほせられし時によみてたてまつれる

紀のつらゆき

行年のおしくもあるかなます鏡みるかげさへにくれぬとおもへば

  • ます鏡(真澄鏡):澄み切った鏡
  • くれぬ:年の暮れ⇔人生の暮れ
  • 白氏文集「鏡裏老来無避処」