和歌ノート

八代集(古今・後撰・拾遺・後拾遺・金葉・詞花・千載・新古今)の注釈メモ

古今和歌集巻第十六

哀傷歌 三十四首

哀傷歌

829

いもうとの身まかりける時よみける

小野たかむらの朝臣

なく涙雨とふらなんわたり川水まさりなばかへりくるがに

  • 定家八代抄・哀傷歌:642

830

さきのおほきおほいまうちぎみを白川のあたりにをくりける夜よめる

そせい法師

ちの涙おちてぞたぎつ白川は君が世までの名にこそ有けれ

  • 定家八代抄・哀傷歌:643

831

ほりかはのおほきおほいまうちぎみ身まかりにける時に、ふか草の山におさめてけるのちによみける

僧都勝延

空蟬はからを見つゝもなぐさめつふか草の山煙だにたて

  • 定家八代抄・哀傷歌:644

832

かむつけのみねを

深草の野辺の桜し心あらばことしばかりはすみぞめにさけ

833

藤原敏行朝臣のみまかりにける時に、よみてかの家につかはしける

きのとものり

ねてもみゆねでも見てけり大かたは空蟬のよぞ夢には有ける

  • 定家八代抄・哀傷歌:638

834

あひしれりける人の身まかりにければよめる

きのつらゆき

夢とこそいふべかりけれ世中にうつゝある物と思ひけるかな

835

あひしれりける人の身まかりにける時によめる

みぶのたゞみね

ぬるが内に見るをのみやは夢といはんはかなき世をも現とはみず

  • 定家八代抄・哀傷歌:639

836

あねの身まかりにける時によめる

せをせけば淵とて成てもよどみけり別をとむるしがらみぞなき

  • 定家八代抄・哀傷歌:645

837

藤原のたゞふさがむかしあひしりて侍ける人の身まかりにける時に、弔ひにつかはすとてよめる

閑院

さきだゝぬくひのやちたびかなしきは流るゝ水のかへりこぬ也

  • 定家八代抄・哀傷歌:646
  • 古今選・哀 ○

838

きのとものりがみまかりにける時よめる

つらゆき

あすしらぬ我身と思へどくれぬまのけふは人こそ悲しかりけれ

  • 定家八代抄・哀傷歌:647
  • 古今選・哀 ○

839

たゞみね

時しもあれ秋やは人のわかるべきあるをみるだに恋しき物を

  • 定家八代抄・哀傷歌:688
  • 古今選・哀 ○

840

はゝがおもひにてよめる

凡河内みつね

神無月時雨にぬるゝもみぢばゝたゞわび人の袂成けり

841

ちゝがおもひにてよめる

たゞみね

ふぢ衣はつるゝいとはわび人の涙の玉のをとぞ成ける

  • 定家八代抄・哀傷歌:684

842

思ひに侍ける年の秋、山でらへまかりける道にてよめる

つらゆき

朝露のおくての山田かりそめにうき世中を思ひぬる哉

  • 定家八代抄・哀傷歌:685
  • 古今選・哀 ○

843

おもひに侍ける人をとぶらひにまかりてよめる

たゞみね

墨染の君がたもとは雲なれやたえず涙の雨とのみふる

  • 古今選・哀 ○

844

女のおやの思ひにて山でらに侍けるを、ある人のとぶらひつかはせりければ返事によめる

よみ人しらず

足曳の山べにいまはすみ染の衣の袖のひる時もなし

845

諒闇のとし池のほとりの花を見てよめる

たかむらの朝臣

水の面にしづく花の色さやかにも君がみかげのおもほゆる哉

  • 定家八代抄・哀傷歌:648

846

深草のみかどの御国忌の日よめる

文屋のやすひで

草ふかき霞のたにゝ影かくしてる日の暮しけふにやあらぬ

  • 定家八代抄・哀傷歌:649
  • 古今選・哀 ○

847

深草のみかどの御時に蔵人の頭にてよるひるなれつかうまつりけるを、諒闇に成にければさらに世にもまじらずしてひえの山にのぼりてかしらおろしてけり、その又のとしみな人御ぶくぬぎて、あるはかうぶりたまはりなどよろこびけるを聞てよめる

僧正遍昭

みな人は花の衣に成ぬ也こけのたもとよかはきだにせよ

  • 定家八代抄・哀傷歌:651
  • 古今選・哀 ○

848

河原のおほいまうちぎみの身まかりての秋、かの家のほとりをまかりけるに、紅葉のいろまだふかくもならざりけるをみてかの家によみていれたりける

近院の右のおほいまうち君

打つけにさびしくもあるか紅葉ばもぬしなき宿は色なかりけり

  • 定家八代抄・哀傷歌:681

849

藤原のたかつねの朝臣の身まかりての又のとしの夏、ほとゝぎすのなきけるをきゝてよめる

つらゆき

郭公けさ鳴こゑにおどろけば君にわかれし時にぞ有ける

850

桜をうへてありけるにやうやく花咲ぬべき時に、かのうへける人身まかりにければその花をみてよめる

きのもちゆき

花よりも人こそあだに成にけれいづれをさきにこひんとかみし

  • 定家八代抄・哀傷歌:682

851

あるじ身まかりにける人の家の梅花をみてよめる

つらゆき

色もかも昔のこさに匂へどもうへけん人のかげぞ恋しき

852

河原の左のおほいまうちぎみの身まかりてのち、かの家にまかりてありけるに、しほがまといふ所のさまをつくれりけるをみてよめる

君まさで煙たえにし塩がまの浦さびしくも見えわたる哉

  • 定家八代抄・哀傷歌:686
  • 古今選・哀 ○

853

藤原のとしもとの朝臣の右近中将にてすみ侍けるざうしの、身まかりてのち人もすまず成にけるに、秋のよふけてものよりまうできけるついでに見いれければ、もとありしせんざいいとしげくあれたりけるをみて、はやくそこに侍ければむかしをおもひやりてよみける

みはるのありすけ

君がうへし一むら薄虫のねのしげき野べとも成にける哉

  • 定家八代抄・哀傷歌:687
  • 古今選・哀 ○

854

これたかのみこのちゝの侍けん時によめりけんうたどもとこひければ、かきてをくりけるおくによみてかけりける

とものり

ことならばことのはさへもきえなゝんみれば涙のたきまさりけり

855

題しらず

よみ人しらず

なき人のやどにかよはゞ郭公かけてねにのみなくとつげなむ

856

誰見よと花さけるらん白雲のたつのとはやく成にし物を

857

式部卿のみこ閑院の五のみこにすみわたりけるを、いくばくもあらで女みこの見まかりける時に、かのみこのすみける帳のかたびらのひもにふみをゆひつけたりけるをとりてみれば、むかしのてにてこのうたをなんかきつけたりける

かず〳〵に我を忘れぬ物ならば山の霞をあはれとはみよ

  • 定家八代抄・哀傷歌:689

858

おとこの人のくにゝまかりけるまに、女にはかにやまひをしていとよはく成にける時、よみをきて身まかりにける

よみ人しらず

声をだにきかで別るゝ玉よりもなきとこにねん君ぞ悲しき

859

やまひにわづらひ侍ける秋、こゝちのたのもしげなくおぼえければよみて人のもとにつかはしける

大江千里

紅葉ばを風にまかせてみるよりもはかなき物は命成けり

  • 定家八代抄・哀傷歌:691

860

身まかりなんとてよめる

藤原これもと

露をなどあだなる物と思ひけん我身も草にをかぬばかりを

  • 定家八代抄・哀傷歌:692

861

やまひしてよはく成にける時よめる

なりひらの朝臣

つゐに行道とはかねてきゝしかど昨日けふとは思はざりしを

  • 定家八代抄・哀傷歌:711
  • 古今選・哀 ○

862

かひのくにゝあひしりて侍ける人とぶらはんとてまかりけるみちなかにて、にはかにやまひをしていま〳〵と成にければ、よみて京にもてまかりて母に見せよといひて人につけ侍けるうた

在原しげはる

かりそめのゆきかひぢとぞ思ひこし今はかぎりのかどで成けり