和歌ノート

八代集(古今・後撰・拾遺・後拾遺・金葉・詞花・千載・新古今)の注釈メモ

古今和歌集巻第十九

雑体 六十八首

雑体

短歌

1001

題しらず

読人しらず

あふことの まれなる色に おもひそめ わが身はつねに あま雲の はるゝ時なく ふじのねの もえつゝとはに おもへども あふことかたし なにしかも 人をうらみん わたつみの おきをふかめて おもひてし 思ひはいまは いたづらに なりぬべら也 ゆくみづの たゆる時なく かくなはに 思みだれて ふる雪の けなばけぬべく おもへども えぶのみなれば 猶やまず 思ひはふかし あし引の 山した水の こがくれて たぎつこゝろを たれにかも あひかたらはん 色にいでば 人しりぬべみ すみぞめの ゆふべになれば ひとりゐて あはれ〳〵と なげきあまり せんすべなみに にはに出て たちやすらへば しろたへの 衣のそでに をく露の けなばけぬべく おもへども 猶なげかれぬ 春がすみ よそにも人に あはれとおもへば

1002

ふるうたゝてまつりし時のもくろくのそのながうた

つらゆき

ちはやぶる 神のみよゝり くれ竹の 世々にもたえず あまびこの をとはの山の はるがすみ おもひみだれて さみだれの 空もとゞろに さよふけて 山ほとゝぎす なくごとに たれもねざめて からにしき たつたの山の もみぢばを 見てのみしのぶ 神無月 しぐれ〳〵て 冬の夜の 庭もはだれに ふる雪の 猶きえかへり としごとに 時につけつゝ あはれてふ ことをいひつゝ 君をのみ ちよにといはふ 世の人の おもひするがの ふじのねの もゆる思ひも あかずして わかるゝなみだ ふぢごろも をれる心も やちくさの ことのはごとに すべらぎの おほせかしこみ まき〳〵の 中につくすと いせのうみの 浦のしほがひ ひろひあつめ とれりとすれど たまのをの みじかき心 思ひあへず 猶あらたまの としをへて 大宮にのみ 久かたの ひるよるわかず つかふとて かへりみもせぬ わがやどの しのぶ草おふる いたまあらみ ふる春雨の もりやしぬらん

1003

ふるうたにくはへてたてまつれるながうた

壬生忠岑

くれ竹の よゝのふるごと なかりせば いかほのぬまの いかにして おもふ心を のばへまし あはれむかしべ ありきてふ 人まろこそは うれしけれ 身はしもながら ことのはを あまつ空まで きこえあげ すゑの世までの あとゝなし 今もおほせの くだれるは ちりにつげとや ちりの身に つもれることを とはるらん これを思へば いにしへも くすりけがせる けだものゝ 雲にほえけん 心ちして ちゞのなさけも おもほえず ひとつ心ぞ ほこらしき かくはあれども てるひかり ちかきまもりの 身成しを たれかは秋の くるかたに あざむきいでゝ みかきより とのへもる身の みかきもり おさ〳〵しくも おもほえず こゝのかさねの なかにては 嵐のかぜも きかざりき 今はの山し ちかければ 春はかすみに たなびかれ 夏はうつせみ なきくらし 秋は時雨に そでをかし 冬は霜にぞ せめらるゝ かゝるわびしき 身ながらに つもれる年を しるせれば いつゝのむつに 成にけり これにそはれる わたくしの おいのかずさへ やよければ 身はいやしくて としたかき ことのくるしさ かくしつゝ ながらのはしの ながらへて なにはの浦に たつなみの なみのしはにや おぼゝれん さすがに命 おしければ こしのくになる しら山の かしらはしろく なりぬとも をとはの滝の 音にきく おいずしなずの くすりもが 君がやちよを わかえつゝ見ん

1004

君が世に逢坂山のいはしみづこがくれたりとおもひける

  • 定家八代抄・雑歌上:1479

1005

冬のながうた

凡河内躬恒

ちはやぶる 神な月とや けさよりは くもりもあへず うちしぐれ 紅葉とゝもに ふるさとの よしのゝ山の 山あらしも さむく日ごとに なりゆけば 玉のをとけて こきちらし あられみだれて しもこほり いやかたまれる 庭のおもに むら〳〵みゆる 冬くさの うへにふりしく しら雪の つもり〳〵て あらたまの 年をあまたも すぐしつる哉

1006

七条のきさきうせたまひにけるのちによみける

伊勢

おきつなみ あれのみまさる 宮のうちは 年へてすみし いせのあまも 舟ながしたる 心ちして よらんかたなく かなしきに 涙のいろの くれなゐは われらがなかの 時雨にて 秋のもみぢと 人々は をのがちり〴〵 わかれなば たのむかげなく なりはてゝ とまる物とは はなすゝき 君なき庭に むれたちて 空をまねかば はつかりの なきわたりつゝ よそにこそ見め

旋頭歌

1007

題しらず

読人しらず

うちわたすをちかた人に物まうすわれそのそこにしろくさけるはなにのはなぞも

  • 定家八代抄・雑歌下:1746

1008

返し

春さればのべにまづさくみれどあかぬ花まひなしにたゞなのるべきはなのなゝれや

  • 定家八代抄・雑歌下:1747

1009

題しらず

はつせ川ふるかはのべにふたもとあるすぎ年をへて又もあひ見ん二もとあるすぎ

  • 定家八代抄・雑歌下:1748

1010

つらゆき

君がさすみかさの山の紅葉ばのいろ神な月時雨の雨のそめるなりけり

俳諧歌

1011

題しらず

読人しらず

梅の花みにこそきつれ鶯のひとく〳〵といとひしもをる

1012

素性法師

山吹の花いろ衣ぬしやたれとへどこたへずくちなしにして

  • 定家八代抄・雑歌中:1587

1013

藤原敏行朝臣

いくばくのたをつくればか郭公しでのたをさを朝な〳〵よぶ

1014

七月六日たなばたの心をよみける

藤原かねすけ

いつしかとまたぐ心をはぎにあげてあまのかはらをけふやわたらん

1015

題しらず

凡河内みつね

むつごともまだつきなくに明ぬめりいづらは秋のながしてふよは

1016

僧正遍昭

秋のゝになまめきたてる女郎花あなかしがまし花も一とき

1017

よみ人しらず

秋くれば野辺にたはるゝ女郎花いづれの人かつまでみるべき

1018

秋霧のはれてくもればをみなへし花の姿ぞ見えかくれする

1019

花とみておらんとすれば女郎花うたゝあるさまのなにこそ有けれ

1020

寛平御時きさいの宮の歌合のうた

在原むねやな

秋風にほころびぬらし藤袴つゞりさせてふきり〴〵鳴

1021

あす春たゝんとしける日、となりの家のかたより風の雪を吹こしけるをみて、そのとなりへよみてつかはしける

清原ふかやぶ

冬ながら春のとなりのちかければ中がきよりぞ花はちりける

1022

題しらず

よみびとしらず

いその神ふりにしこひの神さびてたゝるに我はいぞねかねつる

1023

枕より跡より恋のせめくればせんかたなみぞとこなかにをる

  • 定家八代抄・恋歌四:1233

1024

恋しきがかたも方こそありときけたてれをれどもなき心ち哉

1025

ありぬやと心見がてらあひみねばたはぶれにくきまどぞ恋しき

1026

みゝなしの山の口なしえてしかな思ひの色のしたぞめにせん

1027

足曳の山田のそほづをのれさへ我おほしといふうれはしきこと

1028

きのめのと

ふじのねのならぬ思にもえばもえ神だにけたぬむなし煙を

1029

きのありとも

あひみまくほしはかずなく有ながら人に月なみまどひこそすれ

1030

小野小町

人にあはん月のなきには思をきてむねはしりひに心やけをり

1031

寛平御時きさいの宮の歌合のうた

藤原おきかぜ

春霞たなびくのべの若なにも成みてしかな人もつむやと

1032

題しらず

よみ人しらず

思へども猶うとまれぬ春霞かゝらぬ山のあらじと思へば

1033

平貞文

春のゝのしげき草ばの妻恋にとびたつ雉のほろゝとぞ鳴

1034

きのよしひと

秋のゝに妻なき鹿の年をへてなぞわが恋のかよひとぞなく

1035

みつね

蟬のはのひとへにうすき夏衣なればよりなん物にはあらぬ

1036

たゞみね

かくれぬのしたよりおふるねぬなはのねねなはたゝじくるないとひそ

1037

よみ人しらず

ことならば思はずとやはいひはてぬなぞ世中のたまだすきなる

1038

思てふ人の心のくまごとにたちかくれつゝみるよしもがな

1039

思へども思はずとのみいふなればいなやおもはじおもふかひなし

1040

我をのみ思ふといはゞあるべきをいでや心はおほぬさにして

1041

われを思人をおもはぬ報にやわが思ふ人の我をおもはぬ

1042

ふかやぶ

思ひけん人をぞ友に思はましまさしやむくひなかりけりやは

1043

よみ人しらず

出てゆかん人をとゞめんよしなきに隣のかたにはなもひぬかな

1044

紅にそめし心もたのまれず人をあくにはうつるてふなり

1045

いとはるゝ我身は春の駒なれやのがひがてらにはなちすてつる

1046

鶯のこぞのやどりのふるすとや我には人のつれなかるらん

1047

さかしらに夏は人まねさゝのはのさやぐ霜夜をわがひとりぬる

1048

平中興

逢事の今ははつかに成ぬれば夜ぶかからでは月なかりけり

1049

左のおほいまうちぎみ

もろこしのよしのゝ山にこもるともをくれんと思我ならなくに

  • 定家八代抄・恋歌四:1205

1050

なかき

雲はれぬあさまの山のあさましや人の心を見てこそやまめ

1051

伊勢

難波なるながらの橋もつくる也今は我身をなにゝたとへん

  • 定家八代抄・雑歌上:1500

1052

よみ人しらず

まめなれどなにぞとはけくかるかやの乱れてあれどあしけくもなし

1053

おきかぜ

何かそのなのたつことの惜からんしりてまどふは我ひとりかは

1054

いとこ成けるおとこによそへて人のいひければ

くそ

よそながら我身にいとのよるといへばたゞいつはりにすぐばかり也

1055

題しらず

さぬき

ねぎごとをさのみ聞けんやしろこそはてはなげきの杜と成らめ

1056

大輔

なげきこる山としたかく成ぬればつらづゑのみぞまづゝかれける

1057

よみ人しらず

なげきをばこりのみつみて足曳の山のかひなく成ぬべら也

1058

人こふることをゝもにとになひもてあふごなきこそわびしかりけれ

1059

よゐのまにいでゝ入ぬるみか月のわれて物思ふころにもある哉

1060

そへにとてとすればかゝりかくすればあないひしらずあふさきるさに

1061

世中のうきたびごとに身をなげば深き谷こそあさく成なめ

1062

在原もとかた

世中はいかにくるしと思らんこゝらの人にうらみらるれば

1063

よみ人しらず

なにをして身の徒に老ぬらん年の思はんことぞやさしき

1064

おきかぜ

みはすてつ心をだにもはふらさじつゐにはいかゞなるとしるべく

1065

千さと

しら雪のともにわが身はふりぬれど心はきえぬ物にぞ有ける

1066

題しらず

よみびとしらず

梅のはなさきての後の身なればやすきものとのみ人のいふらむ

1067

法皇にしかはにおはしましたりける日、さる山のかひにさけぶといふことを題にてよませ給ふける

みつね

わびしらにましらなゝきそ足引の山のかひあるけふにやはあらぬ

1068

題しらず

よみ人しらず

世をいとひこのもとごとに立よりてうつぶしぞめのあさのきぬ也

  • 定家八代抄・雑歌上:1509