和歌ノート

八代集(古今・後撰・拾遺・後拾遺・金葉・詞花・千載・新古今)の注釈メモ

後撰和歌集巻第一

春歌上 四十六首

春歌上

1

元日に二条のきさいの宮にて、しろきおほうちぎをたまはりて

藤原敏行朝臣

ふる雪のみのしろ衣打きつゝ春きにけりとおどろかれぬる

  • 定家八代抄・春歌上:8
  • 古今選・雑 ○
  • 九代抄・春:1

2

春立日よめる

凡河内躬恒

春立ときゝつるからにかすが山きえあへぬ雪の花とみゆらん

  • 定家八代抄・春歌上:5

3

兼盛王

けふよりはおぎのやけ原かき分てわかなつみにと誰をさそはん

  • 定家八代抄・春歌上:15

4

ある人のもとに新まいりの女の侍りけるが、月日ひさしくへてむ月のついたちころにまへゆるされたりけるに、雨のふるを見て

よみ人しらず

しら雲のうへしるけふぞ春雨のふるにかひある身とはしりぬる

5

朱雀院の子日におはしましけるに、さはる事侍りてえつかうまつらずして、延光朝臣につかはしける

左大臣

松もひきわかなも摘ず成ぬるをいつしかさくらはやもさかなん

6

院御返し

まつにくる人しなければ春の野々わかなもなにもかひなかりけり

7

子日におとこのもとより、けふは小松ひきになむまかり出るといへりければ

よみ人しらず

君のみやのべに小松をひきに行我もかたみに摘むわかなを

8

だいしらず

霞立かすがの野べのわかなにもなりみてしかな人もつむやと

9

子日しにまかりける人のもとに、をくれ侍りてつかはしける

みつね

春の野に心をだにもやらぬ身はわかなは摘でとしをこそつめ

10

宇多院に子日せんとありければ、式部卿のみこをさそふとて

行明親王

古郷の野べ見にゆくといふめるをいざもろともにわかなつみてん

11

はつ春の歌とて

きのとものり

水のおもにあや吹みだる春風やいけの氷をけふはとくらん

12

寛平御時きさいの宮の歌合のうた

よみ人しらず

吹風や春立きぬとつげつらんえだにこもれる花咲にけり

13

しはすばかりに、やまとへことにつきてまかりけるほどに、やどりて侍ける人の家のむすめを思ひかけて侍りけれども、やむごとなきことによりてまかりのぼりにけり、あくるはるおやのもとにつかはしける

みつね

かすがのにおふるわかなをみてしより心をつねに思ひやるかな

14

かれにけるおとこのもとに、そのすみけるかたの庭の木のかれたりけるえだをおりてつかはしける

兼覧王母

もえ出る木のめをみてもねをぞなく枯にしえだの春をしらねば

15

女の宮づかえにまかり出て侍けるに、めづらしきほどはこれかれものいひなどし侍けるを、ほどもなくひとりにあひ侍にければ、む月のついたちばかりにいひつかはし侍りける

よみ人しらず

いつのまに霞たつらんかすがのゝ雪だにとけぬ色とみしまに

16

だいしらず

閑院左大臣

なをざりにおりつる物を梅の花こきかに我やころもそめてん

17

前栽にこうばいをうへて又の春をそく開ければ

中納言兼輔朝臣

宿近くうつして植しかひもなくまち遠にのみにほふ花哉

18

延熹御時歌めしけるに奉りける

きのつらゆき

春霞たなびきにけり久かたの月のかつらも花やさくらん

  • 古今選・春 ○
  • 九代抄・春:2

19

おなじ御時みづし所にさぶらひけるころ、しづめるよしをなげきて、御らんぜさせよとおぼしくて、ある蔵人にをくりて侍ける十二首がうち

みつね

いづことも春のひかりはわかなくにまだ三吉野の山は雪ふる

  • 古今選・春

20

人のもとにつかはしける

いせ

しら玉をつゝむ袖のみながるゝは春はなみだもさらぬ也けり

21

人にわすられて侍りけるころ、あめのやまずふりければ

よみ人しらず

春立て我身ふりぬるながめには人のこゝろの花もちりけり

22

だいしらず

わがせこにみせんと思ひし梅花それともみえず雪のふれゝれば

  • 定家八代抄・春歌上:42

23

きてみべき人もあらじな我やどのむめの初花おりつくしてん

24

ことならばおりつくしてん梅花わがまつ人のきてもみなくに

25

吹風にちらずもあらなむ梅花わがかり衣ひとよやどさん

26

我やどの梅の初花ひるは雪夜るは月かとみえまがふ哉

27

むめの花よそながらみんわぎもこがとがむばかりのかにもこそしめ

28

そせい法し

梅花おればこぼれぬわが袖に匂ひかうつせいゑづとにせん

29

おとこにつきてはかにうつりて

よみ人しらず

心もておるかはあやな梅花かをとめてだにとふ人のなき

30

としをへて心かけたる女の、ことしばかりをだにまちくらせといひけるが、又のとしもつれなかりければ

人心うさこそまされ春たてばとまらず消るゆきかくれなん

31

だいしらず

梅花かを吹かくる春風に心をそめば人やとがめむ

32

春雨のふらば野山にまじりなむ梅の花がさありという也

33

かきくらし雪はふりつゝしかすがに我家のそのに鶯ぞ鳴

  • 定家八代抄・春歌上:34

34

谷さむみいまだすだゝぬ鶯のなくこゑわかみ人のすさめぬ

35

鶯のなきつる声にさそはれて花のもとにぞ我はきにける

  • 定家八代抄・春歌上:35

36

花だにもまださかなくに鶯のなく一声を春とおもはん

37

君がため山田の沢にゑぐつむとぬれにし袖はいまもかはかず

38

あひしりて侍ける人の家にまかれりけるに、梅の木侍けり、この花さきなむときかならずせうそこせんといひけるを、音なく侍ければ

朱雀院の兵部卿のみこ

むめの花いまは盛に成ぬらんたのめし人のをとづれもせぬ

39

中納言長谷雄朝臣

春雨にいかにぞむめや匂ふらんわが見る枝は色もかはらず

40

春の日ことのつゐでありてよめる

よみ人しらず

梅花ちるてふなへに春雨のふりでつゝなくうぐひすのこゑ

41

かよひすみ侍りける人のいゑのまへなる柳を思ひやりて

みつね

いもが家のはひ入にたてる青柳に今やなくらん鶯のこゑ

42

松のもとにこれかれ侍りて花を見やりて

坂上是則

ふかみどりときはの松のかげにゐてうつろふ花をよそにこそみれ

43

藤原雅正

花のいろはちらぬまばかりふる郷につねには松の緑なりけり

44

紅梅のはなを見て

みつね

紅にいろをばかへてむめの花かぞこと〴〵ににほはざりける

45

これかれまどゐしてさけたうべけるまへに、梅花に雪のふりかゝりけるを

貫之

ふる雪はかつもけなゝん梅花ちるにまどはずおりてかざゝむ

46

兼輔朝臣のねやのまへに紅梅をうへて侍けるを、三とせばかりの後花さきなどしけるを、女どもそのえだをおりてみすのうちより、是はいかゞといひいだして侍れば

春ごとに咲まさるべき花なればことしをもまだあかずとぞみる

はじめて宰相になりて侍けるとしになん