和歌ノート

八代集(古今・後撰・拾遺・後拾遺・金葉・詞花・千載・新古今)の注釈メモ

後撰和歌集巻第十一

恋歌三 九十五首

恋歌三

700

女のもとにつかはしける

三条右大臣

なにしおはゞあふさか山のさねかづら人にしられでくるよしもがな

  • 定家八代抄・恋歌三:1107
  • 古今選・戀 ○○

701

ありはらのもとかた

こひしとはさらにもいはじしたひものとけんを人はそれとしらなん

  • 定家八代抄・恋歌二:1034

702

返し

よみ人しらず

したひものしるしとするもとけなくにかたるがごとはあらずも有哉

703

女のいとおもひはなれていふにつかはしける

うつゝにもはかなき事の侘しきはねなくに夢と思ふ成けり

704

みやづかへする女のあひがたく侍りけるに

貫之

たむけせぬ別する身のわびしきは人めをたびと思ふなりけり

705

かりそめなる所に侍ける女に、心かはりにける男のここにてはかくびむなきところなれば、心ざしはありながらなむえ立よらぬといへりければ、ところをかへてまちけるにみえざりければ

宿かへてまつにもみえず成ぬればつらき所のおほくもある哉

706

だいしらず

よみびとしらず

思はんとたのめし人はかはらじをとはれぬ我やあらぬなるらん

707

源さねあきらたのむ事なくはしぬべしといへりければ

中務

いたづらにたび〳〵しぬといふめればあふには何をかへんとすらん

708

返し

源信明

しぬ〳〵ときく〳〵だにもあひみねば命をいつのよにかのこさん

709

とき〴〵みえけるおとこの、ゐる所のざうしにとりのかたをかきつけて侍りければ、あたりにをしつけ侍りける

本院侍従

ゑにかける鳥とも人をみてしかなおなじ所をつねにとふべく

710

大納言国経朝臣の家に侍ける女に、平定文いとしのびてかたらひ侍て、ゆくすゑまでちぎり侍ける比、この女にはかに贈太政大臣にむかへられてわたり侍にければ、ふみだにもかよはすかたなくなりにければ、かの女の子のいつゝばかりなるが、本院のにしのたいにあそびありきけるをよびよせて、母にみせ奉れとてかひなにかきつけ侍ける

平定文

むかしせし我兼言のかなしきはいかに契りし名残なるらん

  • 定家八代抄・恋歌五:1310

711

返し

よみ人しらず

うつゝにてたれ契りけむさだめなき夢ぢにまよふ我はわれかは

  • 定家八代抄・恋歌五:1311

712

おほやけづかひにて東のかたへまかりけるほどに、はじめてあひしりて侍女に、かくやむ事なき道なれば、心にもあらずまかりぬるなど申てくだり侍りけるを、後にあらためさだめらるゝ事ありてめしかへされければ、この女きゝてよろこびながらとひにつかはしたりければ、みちにて人の心ざしをくりて侍けるくれはとりといふあやを、ふたむらつゝみてつかはしける

清原諸実

くれはとりあやに恋しくありしかばふたむら山もこえずなりにき

  • 古今選・戀 ○

713

返し

よみ人しらず

から衣たつをおしみし心こそふたむら山の関となりけめ

714

人のもとにつかはしける

きよなりが女

夢かともおもふべけれどおぼつかなねめにみしかばわきぞかねつる

715

少将真忠かよひ侍ける所をさりてこと女につきて、それよりかすがの使に出たちてまかりければ

もとの母

空しらぬ雨にもぬるゝ我身哉みかさの山をよそにきゝつゝ

716

あさがほの花まへにありけるざうしより、おとこのあけていで侍けるに

よみ人しらず

もろともにおるともなしに打とけてみえにけるかな朝がほの花

717

内にまかりてひさしうをとせざりけるおとこに

をんな

もゝしきはをのゝえくたす山なれや入にし人の音づれもせぬ

718

女のもとにきぬをぬぎをきてとりにつかはすとて

伊尹朝臣

すゞか山いせをのあまのすて衣しほなれたりと人やみるらん

719

だいしらず

貫之

いかで我人にもとはん暁のあかぬ別やなにゝにたりと

720

在原業平朝臣

恋しきに消かへりつゝ朝露のけさはをきゐん心ちこそせね

721

よみ人しらず

しのゝめにあかで別し袂をぞ露やわけしと人やとがむる

722

平中興

こひしきも思ひこめつゝある物を人にしらるゝ涙なになり

723

からうじてあへりける女に、つゝむ事侍て又えあはず侍ければつかはしける

兼輔朝臣

あふさかの木の下露にぬれしよりわが衣では今もかはかず

  • 古今選・戀

724

だいしらず

みつね

君をおもふ心を人にこゆるぎのいその玉もやいまもからまし

  • 古今選・戀

725

おやある女に忍びてかよひけるを、おとこもしばしば人にしられじといひ侍ければ

よみ人しらず

なき名ぞと人にはいひてありぬべし心のとはゞいかゞこたへん

  • 定家八代抄・恋歌三:1113
  • 九代抄・恋:701

726

なきなたちけるころ

いせ

きよけれど玉ならぬ身のわびしきはみがける物にいはぬ也けり

727

しのびてすみ侍ける女につかはしける

敦忠朝臣

あふ事をいざほに出なんしのすゝき忍びはつべき物ならなくに

  • 古今選・戀

728

あひかたらひける人これもかれもつゝむ事ありて、はなれぬべく侍ければつかはしける

よみ人しらず

あひみてもわかるゝ事のなかりせばかつ〴〵ものはおもはざらまし

729

人のもとよりあかつきかへりて

閑院左大臣

いつのまに恋しかるらんから衣ぬれにしそでのひるまばかりに

  • 古今選・戀 ○

730

貫之

別つるほどもへなくにしら浪の立かへりてもみまくほしきに

731

女のもとにつかはしける

これまさの朝臣

人しれぬ身はいそげどもとしをへてなどこえがたきあふさかの関

732

返し

小野好古朝臣女

東路に行かふ人にあらぬ身はいつかはこえんあふさかの関

733

女のもとにつかはしける

藤原清正

つれもなき人にまけじとせし程に我もあだなは立ぞしにける

734

かれがたになりにけるおとこのもとに、さうぞくてうじてをくれりけるに、かゝるからうとき心ちなんするといへりければ

小野遠興がむすめ

つらからぬ中にあるこそうとしといへへだてはてゝしきぬにやはあらぬ

735

五節の所にて閑院のおほいぎみにつかはしける

もろまさの朝臣

ときはなる日かげのかづらけふしこそ心の色にふかくみえけれ

736

返し

誰となくかゝるおほみにふかゝらんいろをときはにいかゞたのまん

737

藤つぼの人々月夜にありきけるをみて、ひとりがもとにつかはしける

清正

たれとなくおぼろにみえし月影にわける心を思ひしらなん

738

左兵衛督師尹朝臣につかはしける

本院兵衛

春をだにまたで鳴ぬる鶯はふるすばかりの心なりけり

739

だいしらず

兼茂朝臣母

夕されば我身のみこそかなしけれいづれのかたに枕さだめん

740

ありはらの元方

夢にだにまだみえなくに恋しきはいづちならへる心なるらん

741

みぶのたゞみね

思ふてふ事をぞねたくふるしける君にのみこそいふべかりけれ

  • 定家八代抄・恋歌四:1167

742

戒仙法師

あな恋し行てやみまし津の国の今もありてふうらのはつしま

  • 定家八代抄・恋歌三:1114
  • 古今選・戀
  • 九代抄・恋:702

743

やんごとなき事によりて遠き所にまかりて、たゝん月ばかりになむまかりかへるべきといひてまかりくだりて、みちよりつかはしける

貫之

月かへて君をばみんといひしかど日だにへだてず恋しき物を

744

おなじ所にみやづかへし侍て、つねに見ならしける女につかはしける

みつね

いせのうみにしほやくあまの藤衣なるとはすれどあはぬ君かな

  • 定家八代抄・恋歌一:899
  • 古今選・戀
  • 九代抄・恋:703

745

だいしらず

是則

わたのそこかづきてしらん君が為思ふ心のふかさくらべに

746

人のおとこにて侍る人をあひしりてつかはしける

右近

から衣かけてたのまぬ時ぞなき人のつまとはおもふものから

747

人のもとにまかれりけるにすのとにすへて物いひけるを、すをひきあげゝればいたくさはぎければ、まかりかへりて亦のあしたにつかはしける

藤原守正

あらかりしなみの心はつらけれどすごしによせし声ぞ恋しき

748

あひしりて侍りける女の、心ならぬやうにみえ侍りければつかはしける

藤原後蔭朝臣

いづかたに立かくれつゝ見よとてか思ひくまなく人のなりゆく

749

おとこのこゝろやう〳〵かれがたにみえ行ければ

土左

つらきをもうきをもよそにみしかども我身に近きよにこそ有けれ

750

女に心ざしあるよしをいひつかはしたりければ、よの中の人の心さだめなければたのみがたきよしをいひて侍ければ

在原元方

淵は瀬になりかはるてふあすか川わたり見てこそしるべかりけれ

751

だいしらず

いせ

いとはるゝ身をうれはしみいつしかとあすか川をもたのむべらなり

752

返し

贈太政大臣

あすか川せきてとゞむる物ならば淵せになるとなにかいはせん

753

女四のみこにをくりける

右大臣

あしたづの沢べにとしはへぬれども心は雲のうへにのみこそ

  • 定家八代抄・恋歌二:1025
  • 古今選・戀

754

返し

あしたづの雲ゐにかゝる心あらばよをへて沢にすまずぞあらまし

755

せうそこつかはしける女の、又こと人にふみつかはすときゝて、今は思ひたえねといひをくりて侍りける返事に

贈太政大臣

松山につらきながらも浪こさん事はさすがにかなしき物を

  • 九代抄・恋:704

756

みやづかへし侍ける女、ほどひさしくありて物いはんといひ侍けるに、をそくまかりければ

枇杷左大臣

よひのまにはやなぐさめよいその神ふりにし床も打はらふべく

757

返し

いせ

わたつみとあれにし床を今更にはらはゞ袖やあはとうきなん

  • 定家八代抄・恋歌五:1437

758

心ざしありていひかはしける女のもとより、人数ならぬやうにいひ侍ければ

長谷雄朝臣

しほのまにあさりするあまもをのがよゝかひありとこそ思ふべらなれ

759

だいしらず

贈太政大臣

あぢきなくなどか松山浪こさむことをばさらに思ひはなるゝ

760

返し

伊勢

きしもなくしほしみちなば松山をしたにて浪はこさんとぞ思

761

まもりをきて侍けるおとこの心かはりにければ、そのまもりを返しやるとて

これひらの朝臣のむすめいまき

よとゝもになげきこりつむ身にしあればなぞやまもりのあるかひもなき

762

人の心つらくなりにければ袖といふ人をつかひにて

よみ人しらず

人しれぬわが物思ひの涙をばそでにつけてぞみすべかりける

763

文などをこするおとこほかざまになりぬべしときゝて

藤原真忠がいもうと

山のはにかゝるおもひのたえざらば雲ゐながらも哀とおもはん

764

まちじりの君にふみつかはしたりける返事に、みつとのみありければつかはしける

もろうぢの朝臣

なきながす涙のいとゞそひぬればはかなきみづも袖ぬらしけり

765

だいしらず

源たのむ

夢のごとはかなき物はなかりけりなにとて人にあふとみつらん

  • 九代抄・恋:705

766

こゝろざし侍ける女のつれなきに

よみ人しらず

おもひねのよな〳〵夢にあふ事をたゞかた時のうつゝともがな

  • 定家八代抄・恋歌四:1219

767

返し

時のまのうつゝを忍ぶ心こそはかなき夢にまさらざりけれ

  • 九代抄・恋:706

768

だいしらず

くろぬし

玉津島ふかき入江をこぐ舟のうきたる恋も我はするかな

769

紀内親王

つのくにのなにはたゝまくおしみこそすくもたくひの下にこがるれ

  • 定家八代抄・恋歌一:904

770

人のもとにまかりて、いれざりければすのこにふしあかして、かへるとていひいれ侍ける

よみ人しらず

ゆめぢにもやどかす人のあらませばねざめに露ははらはざらまし

  • 九代抄・恋:707

771

返し

涙川ながすねざめもある物をはらふばかりの露やなになり

  • 九代抄・恋:708

772

心ざしはありながらえあはざりける人につかはしける

みるめかる方ぞあふみになしときく玉もをさへやあまはかづかぬ

773

かへし

なのみしてあふ事なみのしげきまにいつか玉もをあまはかづかん

774

こゝろざしありて人にいひかはし侍けるを、つれなかりければいひわづらいてやみにけるを思ひいでゝ、しきりにいひをくりける返事に、心ならぬさまなりといへりければ

かづらきやくめぢの橋にあらばこそ思ふ心を中空にせめ

775

人のもとにつかはしける

右大臣

かくれぬにすむをし鳥の声たえずなけどかいなき物にぞ有ける

776

つりどのゝみこにつかはしける

陽成院御製

つくばねの峰よりおつるみなの川恋ぞつもりて淵と成ける

  • 定家八代抄・恋歌二:963
  • 古今選・戀 ○
  • 九代抄・恋:709

777

あひしりて侍りける人のまうでこずなりてのち、心にもあらずこゑをのみきくばかりにて、又音もせず侍ければつかはしける

よみびとしらず

かりが音の雲ゐはるかにきこえしは今は限の声にぞありける

778

返し

兼覧王

今はとて行かへりぬる声ならばおひ風にてもきこえましやは

779

おとこのけしきやう〳〵つらげにみえければ

小町

心からうきたる舟にのりそめてひとひも浪にぬれぬ日ぞなき

780

おとこの心つらく思かれにけるを、女なをざりになどか音もせぬといひつかはしたりければ

よみ人しらず

わすれなんとおもふ心のやすからばつれなき人をうらみましやは

781

よひに女にあひてかならずのちにあはんとちかごとをたてさせて、あしたにつかはしける

藤原滋幹

ちはやぶる神ひきかけてちかひてしこともゆゝしくあらがふなゆめ

782

院のやまとにあふぎつかはすとて

右大臣

おもひにはわれこそ入てまどはるれあやなく君やすゞしかるべき

783

かねみちの朝臣かれがたになりて、としこえてとぶらひて侍ければ

元平のみこのむすめ

あら玉のとしもこえぬる松山のなみの心はいかゞなるらむ

784

もとのめにかへりすむときゝて、おとこのもとにつかはしける

よみ人しらず

わがためはいとゞあさくやなりぬらん野中の清水ふかさまされば

785

女のもとにつかはしける

源中正

あふみぢをしるべなくてもみてしかな関のこなたはわびしかりけり

  • 古今選・戀

786

返し

下野

道しらでやみやはしなぬあふ坂の関のこなたはうみといふなり

787

女のもとにまかりたるに、はやかへりねとのみいひければ

よみ人しらず

つれなきを思ひ忍ぶのさねかづらはてはくるをもいとふなりけり

788

あつよしのみこの家にやまとゝいふ人につかはしける

左大臣

いまさらに思ひ出じと忍ぶるを恋しきにこそ忘れ侘ぬれ

789

いひかはしける女のいまは思ひわすれねといひ侍ければ

長谷雄朝臣

我がためはみるかひもなし忘草わするばかりのこひにしあらねば

790

忍びてかよひける人に

藤原有好

あひみてもつゝむ思ひのわびしきは人まにのみぞねはなかれける

791

ものいひ侍りけるおとこいひわづらひて、いかゞはせんいなともいひはなちてよといひ侍ければ

よみ人しらず

小山田の苗代水はたえぬとも心のいけのいひははなたじ

  • 古今選・戀 ○

792

かたゝがへに人の家に人をぐしてまかりて、かへりてつかはしける

千世へんとちぎりをきてしひめ松のねざしとめてしやどは忘れじ

  • 古今選・戀

793

物いひける女にせみのもぬけをつゝみてつかはすとて

源重光朝臣

是をみよ人もすさめぬ恋すとて音をなく虫のなれるすがたを

  • 定家八代抄・恋歌二:1000

794

人のもとよりかへりまできてつかはしける

さかのうへのこれのり

あひみてはなぐさむやとぞおもひしに名残しもこそ恋しかりけれ

  • 九代抄・恋:711