和歌ノート

八代集(古今・後撰・拾遺・後拾遺・金葉・詞花・千載・新古今)の注釈メモ

後撰和歌集巻第十四

恋歌六 八十一首

恋歌六

994

人のもとにつかはしける

よみ人しらず

あふ事をよどにありてふみづのもりつらしと君をみつる比哉

995

返し

みづのもりもるこのごろのながめには恨もあへずよどの川なみ

996

みづからまできて夜もすがら物いひ侍けるに、ほどなくあけ侍にければまかりかへりて

うきよとはおもふ物から天の戸のあくるはつらき物にぞありける

997

女のもとにつかはしける

うらむれどこふれど君が夜とゝもにしらずがほにてつれなかるらん

998

返し

うらむともこふともいかゞ雲ゐよりはるけき人を空にしるべき

999

いひわづらひてやみける人に、ひさしうありて又つかはしける

しづはたにへつるほどなりしらいとのたえぬる身とは思はざらなん

1000

かへし

へつるよりうとくなりにししづはたのいとはたえずもかひやなからん

1001

おとこのまできてすき事をのみしければ、人やいかゞみるらんとて

くることはつねならずとも玉かづらたのみはたえじとおもほゆるかな

1002

返し

玉かづらたのめくる日のかずはあれどたえ〴〵にてはかひなかりけり

1003

おとこのひさしうをとづれざりければ

いにしへの心はなくや成にけむたのめしことのたえてとしふる

1004

かへし

いにしへもいまも心のなければぞうきをもしらで年をのみふる

1005

おとこのたゞなりける時はつねにまうできけるが、物いひてのちはかどよりわたれどまでこざりければ

たえざりし昔だにみしうき橋をいまはわたると音にのみきく

1006

いひわびてふたとせばかりをともせずなりにける男の、五月ばかりにまうできて、としごろひさしうありつるなどいひてまかりにけるに

わすられて年ふるさとの郭公なにゝ一こゑなきてゆくらん

1007

題しらず

とふやとてすぎなき宿にきにたれど恋しき事ぞしるべ成ける

1008

物いひ侘て女のもとにいひやりける

露の命いつともしらぬよの中になどかつらしと思ひをかるゝ

1009

女のほかに侍けるを、そこにとをしふる人も侍らざりければ、心づからとぶらひて侍ける返事につかはしける

かり人のたづぬるしかはゐなびのにあはでのみこそあらまほしけれ

1010

忍びたる女のもとより、などかをともせぬと申たりければ

右大臣

小山田の水ならなくにかくばかりながれそめてはたえんものかは

1011

男のまでこで、あり〳〵てあめのふる夜、おほがさをこひにつかはしたりければ

これひらの朝臣の女いまき

月にだにまつほどおほく過ぬれば雨もよにこじとおもほゆる哉

1012

はじめて人につかはしける

よみ人しらず

思ひつゝまだいひそめぬわがこひをおなじ心にしらせてしかな

1013

いひわづらひてやみにけるを又おもひいでゝとぶらひ侍ければ、いとさだめなき心かなといひて、あすか川のこゝろをいひつかはして侍ければ

あすか川心のうちにながるればそこのしがらみいつかよどまん

1014

思ひかけたる女のもとに

あさよりの朝臣

ふじのねをよそにぞきゝし今はわがおもひにもゆる煙なりけり

1015

返し

よみ人しらず

しるしなき思ひとぞきくふじのねもかごとばかりの煙なるらん

1016

いひかはしけるおとこのおやいといたうせいすと聞て、女のいひつかはしける

いひさしてとゞめらるなる池水の浪いづかたにおもひよるらん

1017

おなじ所に侍りける人の思ふ心侍りけれどいはで忍びけるを、いかなるおりにかありけむあたりにかきておとしける

しられじなわが人しれぬ心もて君をおもひのなかにもゆとは

1018

こゝろざしをば哀とおもへど、人めになんつゝむといひて侍ければ

あふばかりなくてのみふるわが恋を人めにかくることのわびしさ

1019

だいしらず

夏衣身にはなるともわがためにうすき心はかけずもあらなむ

1020

いかにしてことかたらはん郭公なげきのしたになけばかひなし

1021

思ひつゝ経にける年をしるべにてなれぬる物はこゝろなりけり

1022

ふみなどつかはしける女の、ことおとこにつき侍りけるにつかはしける

源とゝのふ

我ならぬ人すみのえのきしに出てなにはのかたを恨つるかな

1023

とゝのふかれがたになり侍にければ、とゞめをきたる笛をつかはすとて

よみ人しらず

にごり行水にはかげのみえばこそあしまよふえをとゞめてもみめ

1024

菅原のおほいまうちぎみの家に侍ける女にかよひ侍けるおとこ、中たえて又とひて侍りければ

すがはらやふしみのさとのあれしより通ひし人のあともたえにき

  • 定家八代抄・恋歌五:1403

1025

女の男をいとひて、さすがにいかゞおぼえけんいへりける

ちはやぶる神にもあらぬわが中の雲ゐはるかに成もゆくかな

  • 古今選・戀 ○

1026

返し

ちはやぶる神にもなにかたとふらんをのれ雲ゐに人をなしつゝ

1027

女三のみこに

あつよしのみこ

うきしづむ淵せにさはぐにほ鳥はそこの長閑にあらじとぞ思

1028

又わかうちかひに人のものいふときゝて

藤原守文

松山になみ高き音ぞきこゆなるわれよりこゆる人はあらじを

  • 定家八代抄・恋歌五:1349

1029

おとこのもとに雨ふる夜、かさをやりてよびけれどこざりければ

よみ人しらず

さしてこと思ひし物をみかさ山かひなく雨のもりにけるかな

1030

返し

もるめのみあまたみゆればみかさ山しる〳〵いかかさして行べき

1031

女のもとより、いといたくな思ひわびそとたのめをこせて侍りければ

なぐさむる言のはにだにかゝらずは今もけぬべき露の命を

1032

もとよしのみこのみそかにすみ侍ける比、今こんとたのめてこずなりにければ

兵衛

人しれずまつにねられぬあり明の月にさへこそあざむかれけれ

1033

忍びてすみ侍りける人のもとより、かゝるけしき人にみすなといへりければ

元方

立田川たちなば君がなをおしみいはせの杜のいはじとぞ思ふ

1034

宇多院に侍ける人に、せうそこつかはしける返事も侍らざりければ

よみ人しらず

うだの野はみゝなし山かよぶこどりよぶ声にさへこたへざるらん

1035

返し

女五のみこ

みゝなしの山ならずともよぶこ鳥何かはきかん時ならぬ音を

1036

つれなく侍ける人に

たゞみね

こひ侘てしぬてふ事はまだなきをよのためしにも成ぬべき哉

1037

たちよりけるに女にげて入ければつかはしける

よみ人しらず

影みればおくへ入ける君によりなどか涙のとへはいづらん

1038

あひにける女のまたあはざりければ

しらざりし時だにこえしあふ坂をなど今さらに我まどふらん

1039

女のもとにまかりそめてあしたに

藤原かげもと

あはずして枕の上に別にし夢ぢを又もたづねてしかな

1040

おとこのとはずなりにければ

よみ人しらず

音もせず成もゆくかなすゞか山いとゞまぢかくならんと思を

1041

返し

こえぬてふなをなうらみそすゞか山いとゞまぢかくならんと思を

1042

女にものいはんとてきたりけれども、こと人にものいひければかへりて

我ためにかつはつらしと山木のこりともこりぬかゝる恋せじ

1043

返し

あふごなき身とはしる〳〵恋すとてなげきこりつむ人はよきかは

1044

人につかはしける

かいせん法師

あさごとに露はをけども人こふるわが言のはゝ色もかはらず

1045

きてものいひける人のおほかたはむつまじかりけれど、ちかうはえあはずして

よみ人しらず

まぢかくてつらきをみるはうけれどもうきは物かは恋しきよりは

1046

女のもとにつかはしける

藤原さねたゞ

つくしなる思ひそめ川わたりなば水やまさらんよどむ時なく

1047

返し

よみびとしらず

わたりてはあだになるてふそめ河の心づくしになりもこそすれ

1048

おとこのもとより花ざかりにこんといひて、こざりければ

花ざかりすぐしゝ人はつらけれど言のはをさへかくしやはせん

1049

おとこのひさしうたはざりければ

右近

とふ事をまつに月日はこゆるぎのいそにや出て今はうらみん

  • 古今選・戀

1050

あひしりて侍ける人のもとにひさしうまからざりければ、忘草なにをかたねとおもひしはといふことを、いひつかはしたりければ

よみ人しらず

忘草なをもゆゝしみかりにてもおふてふやどは行てだにみじ

1051

返し

うき事のしげき宿にはわすれ草うへてだにみし秋ぞ侘しき

1052

女ともろともに侍りて

かずしらぬ思ひは君にある物ををき所なき心ちこそすれ

1053

返し

をき所なき思ひとしきゝつれば我にいくらもあらじとぞ思

1054

元長のみこに、夏のさうぞくしてをくるとてそへたりける

南院式部卿のみこの女

わがたちてきるこそうけれ夏衣おほかたとのみ見べきうすさを

1055

ひさしうとはざりける人のおもひいでゝ、こよひまでこんかどさゝであひまてと申て、までこざりければ

よみ人しらず

八重葎さしても門をいまさらに何にくやしくあけて待けん

1056

人をいひわづらひてこと人にあひ侍てのち、いかゞありけむはじめの人に思ひかへりてほどへにければ、ふみはやらずしてあふぎにたかさごのかたかきたるにつけてつかはしける

源庶明朝臣

さをしかの妻なきこひを高砂のおのへの小松きゝもいれなん

1057

返し

よみ人しらず

さを鹿の声たかさごにきこえしは妻なき時の音にこそ有けれ

1058

おもふ人にえあひ侍らでわすられにければ

せきもあへず涙の川のせをはやみかゝらん物と思ひやはせし

1059

題しらず

せをはやみたえずながるゝ水よりもたえせぬ物は恋にぞ有ける

1060

こふれどもあふ夜なき身は忘草夢路にさへや生しげるらん

1061

世中のうきはなべてもなかりけりたのむかぎりぞ恨られける

1062

たのめたりける人に

夕さればおもひぞしげきまつ人のこんやこじやの定なければ

1063

女につかはしける

源よしの朝臣

いとはれてかへりこしぢの白山はいらぬにまどふ物にぞありける

1064

だいしらず

よみ人も

人なみにあらぬ我身は難波なる芦のねのみぞしたにながるゝ

1065

白雲のゆくべき山もさだまらず思ふかたにも風はよせなん

1066

よの中に猶ありあけの月なくてやみにまどふをとはぬつらしな

1067

さだまらぬこゝろありと女のいひたりければ、つかはしける

贈太政大臣

あすか川せきてとゞむる物ならばふちせになるとなにかいはれん

1068

ひさしうまかりかよはずなりにければ、十月ばかりに雪のすこしふりたるあしたにいひ侍ける

右近

身をつめば哀とぞおもふ初雪のふりぬることもたれにいはまし

1069

源たゞあきらの朝臣、十月計にとこ夏をおりて送て侍ければ

よみ人しらず

冬なれど君が垣ほにさきぬればむべとこ夏にこひしかりけり

1070

女のうらむる事ありておやのもとにまかりわたりて侍けるに、雪のふかくふりて侍ければ、あしたに女のむかへにくるまつかはしけるせうそこに、くはへてつかはしける

兼輔朝臣

白雪のけさはつもれるおもひかなあはでふるよのほどもへなくに

  • 古今選・戀 ○

1071

返し

よみ人しらず

しら雪のつもる思ひもたのまれず春よりのちはあらじと思へば

1072

心ざし侍女みやづかへし侍ければ、あふ事かたくて侍りけるに、雪のふるにつかはしける

わが恋し君があたりをはなれねばふる白雪も空にきゆらん

1073

返し

山がくれきえせぬ雪の侘しきは君松のはにかゝりてぞふる

  • 九代抄・恋:721

1074

ものいひ侍ける女にとしのはてのころほひつかはしける

藤原時雨

あら玉のとしはけふあすこえぬべしあふ坂山を我やをくれん