和歌ノート

八代集(古今・後撰・拾遺・後拾遺・金葉・詞花・千載・新古今)の注釈メモ

拾遺和歌集巻第一

春 七十八首

1

平さだふんが家歌合によみ侍ける

壬生忠岑

春たつといふばかりにやみよし野の山もかすみて今朝はみゆらん

2

承平四年中宮の賀し侍ける時の屏風のうた

紀文幹

春霞たてるをみればあら玉のとしは山よりこゆるなりけり

3

かすみよをみ侍ける

山辺赤人

昨日こそ年はくれしか春がすみかすがの山にはや立にけり

4

冷泉院東宮におはしましける時、歌たてまつれとおほせられければ

源重之

吉野山みねのしら雪いつきえて今朝は霞のたちかはるらん

5

延喜御時月次御屏風に

素性法師

あら玉のとしたちかへるあしたよりまたるゝ物は鶯のこゑ

6

天暦御時歌合に

源順

氷だにとまらぬ春の谷かぜにまだうちとけぬ鶯の声

7

題しらず

平祐挙

春たちてあしたのはらの雪みればまだふる年の心ちこそすれ

8

さだ文が家歌合に

みつね

春たちて猶ふる雪は梅のはなさく程もなく散かとぞみる

9

題しらず

よみ人しらず

わが宿の梅にならひてみよし野の山の雪をも花とこそみれ

10

天暦十年三月廿九日内裏歌合に

中納言朝忠

鶯のこゑなかりせば雪きえぬ山里いかで春をしらまし

11

うぐひすをよみ侍ける

大伴家持

うちきらし雪はふりつゝしかすがにわが家の園に鶯ぞなく

12

題しらず

柿本人丸

梅のはなそれともみえず久かたのあまぎる雪のなべてふれゝば

13

延喜御時宣旨にてたてまつれる歌の中に

つらゆき

梅が枝に降かゝりてぞしら雪の花のたよりにおらるべらなる

14

同御時屏風に

みつね

降雪に色はまがひぬ梅の花香にこそにたる物なかりけれ

15

冷泉院御屏風のゑに、梅の花ある家にまらうどきたる所

平兼盛

わがやどの梅の立枝やみえつらむおもひのほかに君がきませる

16

斎院御屏風に

みつね

香をとめて誰おらざらむ梅の花あやなしかすみたちなかくしそ

17

もゝぞのにすみ侍ける前斎院屏風に

つらゆき

白妙のいもが衣にむめのはな色をも香をもわきぞかねつる

18

題しらず

人丸

あすからはわかなつまむとかた岡のあしたのはらはけふぞやくめる

19

恒佐右大臣の家の屏風に

貫之

野辺みればわかなつみけりむべしこそかきねの草も春めきにけれ

20

わかなを御覧じて

円融院御製

春日野におほくの年はつみつれどおいせぬ物はわかななりけり

21

題しらず

大伴家持

春の野にあさるきゞすの妻ごひにをのがありかを人にしれつゝ

22

おほきさいの宮に宮内といふ人のわらはなりける時、だいごのみかどのおまへにさぶらひけるほどに、おまへなる五葉に鶯のなきければ正月はつねのひつかうまつりける

松のうへになくうぐひすのこゑをこそはつねの日とはいふべかりける

23

題しらず

ただみね

ねのひする野辺に小松のなかりせば千世のためしに何をひかまし

24

入道式部卿のみこの子日し侍ける所に

大中臣能宣

ちとせまでかぎれる松もけふよりは君にひかれて万代やへん

25

延喜御時御屏風に水のほとりに梅花見たる所

つらゆき

梅花まだちらねども行水のそこにうつれるかげぞみえける

26

題しらず

よみ人しらず

つみたむることのかたきはうぐひすのこゑする野べのわかなゝりけり

27

梅花よそながらみむわぎもこがとがむばかりの香にもこそしめ

28

袖たれていざわがそのにうぐひすの木づたひちらす梅の花みん

29

兵部卿元良親王

あさまだきおきてぞみつる梅花夜のまの風のうしろめたさに

30

みつね

吹風をなにいとひけむ梅花ちりくる時ぞ香はまさりける

31

大中臣能宣

匂ひをばかぜにそふともむめのはな色さへあやなあだにちらすな

32

よみ人しらず

ともすれば風のよるにぞ青柳のいとは中々みだれそめける

33

屏風に

大中臣能宣

ちかくてぞ色もまされるあをやぎの糸はよりてぞみるべかりける

34

題しらず

凡河内躬恒

青柳のはなだのいとをよりあはせてたえずもなくか鶯のこゑ

35

よみ人しらず

花みにはむれてゆけども青柳のいとのもとにはくる人もなし

36

子にまかりをくれて侍けるころ、東山にこもりて

中務

さけばちるさかねば恋し山ざくらおもひたえせぬ花のうへかな

37

題しらず

吉野山たえずかすみのたなびくは人にしられぬ花やさくらん

38

天暦九年内裏歌合に

よみ人しらず

さきさかずよそにてもみむ山桜嶺のしら雲たちなかくしそ

39

題しらず

吹風にあらそひかねて足曳の山のさくらはほころびにけり

40

菅家万葉集の中

浅みどり野べのかすみはつゝめどもこぼれてにほふ花ざくらかな

41

題しらず

よみ人しらず

芳野山きえせぬ雪と見えつるはみねつゞきさく桜なりけり

42

天暦御時麗景殿女御と中将更衣と歌合し侍けるに

清原元輔

春がすみたちなへだてそ花ざかりみてだにあかぬ山のさくらを

43

平さだふんが家の歌合に

たゞみね

春はなをわれにてしりぬ花ざかり心のどけき人はあらじな

44

賀御屏風に

藤原千景

さきそめていくかへぬらん桜花色をば人にあかずみせつゝ

45

天暦御時御屏風

たゞみ

春くればまづぞうちみるいそのかみめづらしげなき山田なれども

46

題しらず

在原元方

春くれば山田のこほりうちとけて人の心にまかすべらなり

47

承平四年中宮の賀し給ける時の屏風に

斎宮内侍

春の田を人にまかせて我はたゞ花に心をつくるころかな

48

宰相中将敦忠朝臣家屏風に

つらゆき

あだなれどさくらのみこそ故郷のむかしながらの物にはありけれ

49

斎院屏風、山みち行人ある所

伊勢

ちりちらずきかまほしきをふるさとの花みてかへる人もあはなん

50

題しらず

よみ人しらず

桜がり雨はふりきぬおなじくはぬるとも花のかげにかくれむ

51

もとすけ

とふ人もあらじとおもひし山里に花のたよりに人めみるかな

52

円融院御時三尺御屏風に

平兼盛

花の木をうへしもしるく春くればわが宿すぎて行人ぞなき

53

題しらず

よみ人しらず

桜色に我身はふかくなりぬらんこゝろにしみて花をおしめば

54

権中納言義懐家のさくらの花おしむ歌よみ侍けるに

藤原長能

身にかへてあやなく花をおしむかないけらば後の春もこそあれ

55

題しらず

よみ人しらず

みれどあかぬ花のさかりにかへる雁猶ふる郷の花やこひしき

56

ふる郷の霞とびわけゆくかりはたびの空にや春をくらさむ

57

天暦御時御屏風に

藤原清正

ちりぬべき花みる時はすがのねのながき春日もみじかゝりけり

58

だいしらず

よみ人しらず

つげやらむまにもちりなば桜花いつはり人にわれやなりなん

59

屏風に

よしのぶ

散りそむる花を見すてゝかへらめやおぼつかなしといもはみるとも

60

題しらず

よみ人しらず

見もはてゞ行とおもへばちる花につけて心の空になるらむ

61

延喜御時藤壺の女御歌合のうたに

朝ごとにわがはく宿の庭ざくら花ちる程は手もふれでみむ

62

あれはてゝ人も侍らざりける家に、さくらのさきみだれて侍けるを見て

恵慶法師

浅茅原ぬしなき宿の桜花心やすくや風にちるらむ

63

きたの宮のもぎの屏風に

つらゆき

春ふかくなりぬとおもふを桜花ちる木のもとはまだ雪ぞふる

64

亭子院歌合に

桜ちる木のしたかぜはさむからで空にしられぬ雪ぞ降ける

65

題しらず

よみ人しらず

足曳の山ぢにちれるさくらばなきえせぬ春の雪かとぞみる

66

天暦御時歌合に

小弐命婦

足引の山がくれなるさくら花ちりのこれりと風にしらるな

67

題しらず

よみ人しらず

岩まをもわけくる滝の水をいかでちりつむ花のせきとゞむらん

68

天暦御時歌合に

源順

春ふかみ井での川なみたちかへりみてこそゆかめ山ぶきの花

69

ゐでといふ所にやまぶきの花のおもしろくさきたるを見て

恵慶法師

山吹のはなのさかりにゐでにきてこの里人になりぬべきかな

70

屏風に

もとすけ

物もいはでながめてぞふるやまぶきの花に心ぞうつろひぬらん

71

題しらず

よみびとしらず

さは水にかはづなくなりやまぶきの花に心ぞうつろひぬらん

72

我やどの八重やまぶきはひとへだに散のこらなん春のかたみに

73

亭子院歌合に

坂上是則

花の色をうつしとゞめよかゞみ山春より後のかげや見ゆると

74

題しらず

よみ人しらず

春霞たちわかれ行山みちは花こそぬさとちりまがひけれ

75

としのうちはみな春ながらくれなゝん花みてだにもうき世すぐさん

76

延喜御時春宮御屏風に

つらゆき

風ふけばかたもさだめずちる花をいづかたへゆく春とかはみむ

77

おなじ御時月次御屏風に

花もみなちりぬる宿はゆく春のふるさとゝこそなりぬべらなれ

78

閏三月侍けるつごもりに

みつね

つねよりものどけかりつる春なれどけふのくるゝはあかずぞ有ける